イギリスが誇る二大高級車ブランド、アストンマーチンとベントレー。どちらも「羽(ウィング)」をモチーフにしたエンブレムを掲げており、街中で見かけるとその気品ある佇まいに目を奪われます。しかし、車に詳しくない人や検討を始めたばかりの人にとって、この二つのロゴは驚くほど似通って見えるかもしれません。遠くから走ってくる姿を見た時、どちらのブランドなのか瞬時に判断するのは、意外と難易度が高いものです。
実は、この似たような「羽マーク」には、それぞれ全く異なるルーツと哲学が込められていました。アストンマーチンとベントレーのロゴの決定的な違いは、羽のモチーフとなった生き物の種類と、中央に配置された文字や意匠にあります。調べて判明したロゴの由来や、誰でも一瞬で見分けられるようになるチェックポイント、さらにはイギリスの高級車たちがなぜ「羽」にこだわるのかという歴史的な背景まで、等身大の視点で詳しく解き明かします。これを知れば、次にお洒落な街角でイギリス車に出会った時、そのエンブレムが持つ深い意味まで味わえるようになるはずです。
アストンマーチンとベントレーのロゴって遠目だとそっくり!
高級車の象徴として多くのブランドが採用するウィングマークですが、アストンマーチンとベントレーのそれは、確かに初見では区別がつきにくいものです。どちらもイギリスを本拠地とし、ラグジュアリーとスポーツを高次元で融合させているブランドだからこそ、そのシンボルにも共通の「匂い」が漂っています。
どっちもイギリスを代表する超高級車ブランドなのがややこしい
アストンマーチンとベントレーが並んで語られることが多いのは、両者がイギリスのモータースポーツ史において輝かしい実績を持ち、かつ世界最高峰の贅沢を提供しているからです。アストンマーチンは「ボンドカー」としての華やかなイメージが強く、ベントレーは「走る貴賓室」と呼ばれる圧倒的な重厚感で知られています。似たような羽の形をしていながら、ブランドが目指す方向性は少しずつ異なっているのですが、同じイギリスという土壌で育ったために、デザインの美意識がどこか似通ってしまうのは避けられないことだったのかもしれません。
正直なところ、車に興味がない人からすれば「どっちも羽が生えたカッコいい車」で片付けられてしまうでしょう。しかし、その曖昧さこそが、イギリスの高級車が持つ独特の神秘性を高めているようにも感じます。格式を重んじるベントレーと、エレガンスを追求するアストンマーチン。この二つが同じウィングマークを掲げていることは、ライバルでありながら同じ理想を追い求める同志のような関係性を示唆しているようで、調べていくうちにその「ややこしさ」さえ愛おしく思えてきました。つまり、似ていることを入り口にしてそれぞれの個性を知るのが、イギリス車を楽しむ醍醐味だと言えます。
羽を広げたエンブレムに込められた共通のプライド
なぜ彼らは羽を広げたデザインを愛用するのでしょうか。それは、羽というモチーフが「スピード」「自由」、そして「高貴な上昇」を象徴する世界共通のアイコンだからです。重厚なエンジンを積みながら、まるで翼が生えたかのように軽やかに、かつ速く駆け抜ける。その物理的な限界を超えようとする意思が、あの羽のラインには刻まれています。ベントレーもアストンマーチンも、初期の歴史においては航空機産業との関わりが深く、空を飛ぶことへの憧れと、その技術力を地上で体現しようとする誇りが共有されています。
実際のところ、羽のエンブレムを掲げることは「我々はただの移動手段を作っているのではない」という宣言でもあります。風を切り、重力を忘れさせるような走行体験を約束する。そんなブランドのプライドが、あの小さなバッジに凝縮されているわけです。それがイギリス車特有のクラフトマンシップと結びついた時、他国のブランドにはない、彫刻のような美しさを持つロゴが完成しました。つまり、ウィングマークは単なる飾りではなく、イギリスのエンジニアたちが追い求め続けてきた「速さへの執念」を具現化した聖域のような存在なのだと、改めて気づかされました。
アストンマーチンの羽マークはスカラベという虫だった?
アストンマーチンのエンブレムをじっくり眺めたことがあるでしょうか。実はあの羽、鳥の翼ではなく「虫の羽」をヒントに作られているという、意外すぎるルーツを持っていました。
最初はただの文字を重ねただけの地味なマークだった
アストンマーチンの歴史を遡ると、最初からあの立派なウィングマークがあったわけではありません。1913年の創業当時は、円形の中に「A」と「M」の文字を重ねただけの、非常にシンプルで地味なデザインでした。今の華やかなイメージからは想像もつかないほど実務的なロゴであり、ブランドがまだ試行錯誤の中にあったことを物語っています。ラグジュアリーブランドとしての地位を確立するにつれ、もっとスピード感や力強さを表現できるシンボルが必要だと、当時の経営者たちは考えたのでしょう。
この初期ロゴは、現在の中古車市場でも極めて稀なクラシックモデルでしかお目にかかれません。つまり、私たちが知っているアストンマーチンのアイデンティティは、時代と共に少しずつ形作られてきた後付けの美学でもあります。意外なことに、あの羽の形が初めて採用されたのは1920年代後半になってからでした。そこから何度も修正が加えられ、現代の洗練されたフォルムへと洗練されていった。ブランドの成長と共にロゴが豪華になっていく過程は、まるで一人の人間が成功を収めて仕立ての良いスーツを身に纏っていく姿を見ているようで、非常に興味深い歴史の変遷を感じました。
古代エジプトで神聖視された虫の羽を拝借した理由
1932年、アストンマーチンのロゴに決定的な変化が訪れます。当時のレーシングドライバーであり、デザイナーでもあったサミー・デイビスが、古代エジプトで太陽神の象徴として崇められていた「スカラベ(フンコロガシ)」の羽をモチーフに採用したのです。鳥の羽ではなく、硬い甲殻を持ちながら力強く羽ばたくスカラベの羽を選んだのは、当時の考古学ブームの影響もあったと言われていますが、同時にその「再生」や「復活」という神聖な意味合いをブランドに重ねたかったからだと考えられます。スピードを追求する車に、不老不死の象徴を載せるという発想は、まさにイギリス的なウィットに富んだ選択です。
このスカラベ由来の羽は、ベントレーの鳥のような柔らかな羽に比べて、どこか幾何学的でカチッとした印象を与えます。羽のラインが水平に近く、左右に真っ直ぐ伸びているのが特徴。調べて判明したこの事実は、アストンマーチンを「単なるスポーツカー」から「神秘的なオーラを纏った特別な存在」へと引き上げる、重要なスパイスになっています。正直なところ、初めて「あれは虫の羽だよ」と聞いた時は驚きましたが、その背景にある壮大な歴史ロマンを知ると、あの無機質な金属のバッジに熱い生命力が宿っているように見えてくるから不思議なものです。
2022年に新しくなったロゴはどこが変わったのか
アストンマーチンは2022年、数十年ぶりにロゴのリニューアルを行いました。しかし、この変更は非常に控えめで、一見しただけでは「どこが変わったの?」と思ってしまうほど。具体的には、羽の中にあった「V字型」のラインが消え、全体的に線が整理されてよりフラットでモダンな印象になりました。これは、デジタル画面での視認性を高めると同時に、現代の「ミニマリズム」というトレンドに合わせた進化。複雑な装飾を削ぎ落とし、スカラベの羽という本質的なフォルムをより際立たせる狙いがあったとされます。
このリニューアルに対して、古くからのファンからは「寂しい」という声も上がりましたが、実際に実車に装着された新ロゴを見ると、そのシンプルさがかえって車体デザインの美しさを引き立てていることに気づかされます。つまり、時代に合わせて自分たちの象徴をアップデートし続ける柔軟性こそが、アストンマーチンが100年以上も生き残ってきた秘訣なのでしょう。細いライン一本を消すために、どれほどの議論が重ねられたのか。その目に見えないこだわりこそが、イギリスの高級ブランドが持つ本当の怖さであり、魅力なのだと痛感しました。
ベントレーの羽の枚数が左右でわざとバラバラに作られている理由
ベントレーのエンブレムには、職人の執念とも呼べる「仕掛け」が隠されています。左右対称に見える美しい羽の枚数を数えてみると、そこには驚きの事実が隠されていました。
創業者の頭文字Bを支える羽は空軍での経験から生まれた
ベントレーのロゴ「ウィングドB」の主役は、中央に鎮座する大きな「B」の文字です。これは創業者ウォルター・オーウェン・ベントレーの頭文字。彼を支えるように広がる羽は、彼が第一次世界大戦中にイギリス空軍の航空機エンジンを設計していた経験からインスピレーションを得たものです。航空機のプロペラと、空を飛ぶ自由な翼を組み合わせたこのデザインは、ベントレーが単なる自動車メーカーではなく、空の技術を地上に持ち込んだ先駆者であることを象徴しています。
この「B」という文字を堂々と掲げる姿勢は、作り手の自信の現れそのものです。アストンマーチンが羽の中にブランド名を綴るのに対し、ベントレーは一文字だけで自らを表現する。そこには、王室御用達を拝命するほどのブランドが持つ、揺るぎないプライドが感じられます。実際のところ、ベントレーの羽はアストンよりも肉厚で、より「鳥」に近い有機的な曲線を描いています。航空エンジンの精密さと、大空を舞う鳥の優雅さ。この相反する要素が一つのバッジに同居していることが、ベントレーという車の多面的な魅力を物語っているように思えてなりません。
偽物を作らせないために左右の羽の数を変えたという逸話
ベントレーのロゴをルーペで覗いてみると、ある奇妙なことに気づきます。実は、多くのモデルにおいて「左右の羽の枚数が異なっている」のです。例えば、左側が10枚なのに対し、右側が11枚といった具合に、あえて非対称に作られています。なぜこれほど完璧を求めるブランドが、このようなアンバランスなことをしたのでしょうか。最大の理由は「偽造防止」です。かつてベントレーが世界の頂点に君臨していた頃、その威光を借りようとする偽物のバッジが横行しました。そこでベントレーは、一見すると左右対称に見えながら、実は枚数が違うという「隠しコマンド」のような仕掛けを施し、本物を見分ける基準にしたと言われています。
この事実は、イギリスのクラフトマンシップが持つ「偏執的なまでのこだわり」を象徴するエピソードです。普通なら揃えたくなるところを、防犯とオリジナリティのためにあえて崩す。この遊び心と実益を兼ね備えた工夫こそが、ベントレーというブランドの深みになっています。意外なことに、現代の最新モデルでもこの伝統が引き継がれているものがあり、オーナーたちが自分の車の羽を数えて楽しむ光景も見られます。つまり、非対称であることこそが、ベントレーにおける「究極の正解」であり、偽物には決して真似できない誇り高い傷跡のようなものなのです。
ボンネットに立つ羽の付いたBの像は今でも健在なのか
ベントレーといえば、グリルから飛び出すように配置された立体的なマスコット「フライングB」を思い浮かべる人も多いでしょう。ロールスロイスのスピリット・オブ・エクスタシーと同様に、かつてはベントレーの威厳を示す象徴でした。しかし、歩行者保護の観点からこうした突起物は規制が厳しくなり、一時期は姿を消しかけていました。ところが、現代の技術がこの伝統を救いました。最新のフライングBは、エンジンをかけるとグリルの中から電動でせり出し、走行しない時は盗難防止と安全のために自動で格納される仕組み。さらにLEDで発光する演出まで加わり、以前よりも格段にハイテクでラグジュアリーな装備として復活しました。
このマスコットが立ち上がる瞬間は、まさにオーナーだけが味わえる至高のセレモニーです。平地のエンブレムも美しいですが、やはり立体的なフライングBが風を切って走る姿には、特別な高揚感があります。正直なところ、この装備だけで数百万円のオプション費用がかかることもありますが、それでも多くのオーナーがこれを選ぶのは、そこにベントレーの魂が宿っていると信じているからです。つまり、形を変えながらも伝統を守り続ける姿勢。その執念が、あの空飛ぶBの像には凝縮されているのだと、改めて実感しました。
| ブランド | 羽のルーツ | 特徴的な仕掛け | 視覚的な印象 |
| アストンマーチン | 古代エジプトのスカラベ(虫) | 2022年にミニマル化 | シャープで水平なライン |
| ベントレー | イギリス空軍の航空翼 | 左右非対称の枚数 | 肉厚で曲線的な鳥の翼 |
街中で一瞬で見分けるなら真ん中の丸に注目してみて
どちらも素晴らしい羽のロゴですが、信号待ちのわずかな時間でそれを見分けるための、決定的なチェックポイントがあります。一度コツを掴んでしまえば、もう迷うことはありません。
文字が書いてあるアストンとBが鎮座するベントレー
最も確実で見分けやすいポイントは、羽の中央にある円形部分の中身です。アストンマーチンのロゴは、中央に「ASTON MARTIN」というブランド名がはっきりと、横長に記されています。一方で、ベントレーは円の中にアルファベットの「B」が一文字だけ、大きく力強く刻まれています。つまり、中央をパッと見て「何か文字が長々と書いてあるな」と思えばアストン、「大きなBがあるな」と思えばベントレー。これだけで、識別作業の9割は完了したようなものです。
この違いは、ブランドの自己主張の仕方をそのまま反映しています。自らの名前をフルネームで名乗るアストンマーチンの誠実さと、一文字で十分だと語るベントレーの威風堂々とした態度。実際のところ、走行中の車を判別するのは難しいですが、フロントグリルの中心にある「黒い丸」が大きく見えるのがベントレー、横に細長い銀色のバッジに見えるのがアストンマーチンだという感覚を掴むと、識別精度は劇的に上がります。主観ですが、中央のBが目に飛び込んできた時の「ああ、ベントレーだ」という安心感は、独特の重厚なオーラと相まって、脳に直接訴えかけてくるものがありました。
羽がシュッと横に長いのがアストンで丸っこいのがベントレー
中央を見分ける余裕がない時は、羽の全体のシルエットに注目してみてください。アストンマーチンの羽は、スカラベがモチーフなだけあって、左右にシュッと真っ直ぐ、水平に伸びているのが特徴です。羽の端が鋭く、全体的に「長方形」に近いシャープな印象を与えます。対してベントレーの羽は、航空機の翼や鳥の羽をイメージしているため、全体的に丸みを帯びており、羽の先端が少し持ち上がったような「楕円形」に近いフォルムをしています。つまり、スタイリッシュで直線的なのがアストン、ボリューミーで曲線的なのがベントレーです。
このシルエットの違いは、車全体のデザイン哲学ともリンクしています。地を這うような低くシャープなアストンのボディには直線の羽が似合い、圧倒的な質量感を持つベントレーの巨体には、肉厚な羽がよく馴染む。意外なことに、この羽の形状の違いを知るだけで、遠くからでもシルエットの違和感としてブランドを特定できるようになります。正直なところ、どちらも美しいことに変わりはありませんが、アストンが「スピードの刃」だとしたら、ベントレーは「空飛ぶ宮殿」の翼。その機能の違いが、羽の描き方一枚にも正直に現れているのだと気づかされました。
エンブレムの土台の色を見ればその車の性格がわかる
もう一つ、マニアックですが重要な見分け方が「土台の色」です。特にベントレーの場合、中央の「B」の背景色がモデルによって使い分けられていることがあります。かつては赤い土台のB(レッドラベル)はスポーティなモデル、黒い土台(ブラックラベル)はより強力なパワーを持ったモデルといった具合に、エンブレムの色がそのままその車の性格を表していました。最近ではカスタマイズの自由度が上がり、必ずしも厳密ではありませんが、それでも「色」が持つメッセージ性は健在です。アストンマーチンも、基本は緑色の背景(ブリティッシュレーシンググリーン)ですが、限定モデルや特別な仕様では黒や銀に色を変えることがあります。
バッジの色が変わるだけで、車の表情はガラリと変わります。実際のところ、赤いロゴを冠したベントレーがバックミラーに映った時の迫力は、通常のモデルとは一線を画す「本気度」を感じさせます。つまり、ロゴは単なる名前の表示板ではなく、その車の「心臓部の熱量」を外部に伝えるシグナルのようなもの。見分ける楽しみのその先に、その個体がどのような目的で作られたのかを推測する喜びがある。エンブレムの色を気にするようになれば、あなたはもう立派な高級車愛好家の入り口に立っています。
ベントレーのBの色が赤や黒で分かれているのはどうして?
ベントレーのロゴの中央、あの小さな「B」の背景色には、かつて明確な階級制度のような意味が込められていました。これを理解すると、中古車選びや街歩きがさらに面白くなります。
赤いロゴが付いているのはスポーティな走りを楽しめるモデル
かつてベントレーのラインナップにおいて、赤い背景の「B」は「レッドラベル」と呼ばれ、最もエネルギッシュでドライバーズカーとしての性格が強いモデルに与えられていました。情熱を象徴する赤は、ベントレーの重厚なイメージに「速さ」というスパイスを加えるための記号。つまり、同じモデルでも赤いロゴが付いている個体は、足回りが引き締められていたり、ハンドルのレスポンスが鋭かったりと、運転そのものを楽しむためのチューニングが施されている証拠でした。
このレッドラベルという響きには、特別な憧れを持つファンが多い。実際のところ、赤いロゴを好んで選ぶオーナーは、自らハンドルを握って峠道を駆け抜けるような、アクティブなライフスタイルを送っていることが多いです。主観を言えば、真っ黒なボディのベントレーに一点、赤いエンブレムが輝いている姿は、内側に秘めた闘争心を隠しきれていないようで、非常にセクシーに見えます。最近のモデルでは色の使い分けが少し自由になっていますが、それでも「赤=スポーツ」という伝統的な文脈は、今もなおファンの間で語り継がれる重要な共通言語です。
黒いロゴは力強いパワーを持った最上級グレードの証
一方で、黒い背景の「B」は「ブラックラベル」と呼ばれ、そのシリーズの中でも最も強力なエンジンを積み、豪華な装備を施されたフラッグシップモデルに与えられる称号でした。黒は権威、力、そして究極の気品を象徴します。かつての「アーナージ」というモデルなどでは、この色の違いがそのまま搭載されるエンジンの種類(排気量や過給器の有無)を決定づけていました。つまり、黒いロゴを見た瞬間に「この車は、このシリーズで一番偉い個体だ」と誰もが察したわけです。
黒いロゴのベントレーは、その場を支配するような静かな迫力を持っています。実際のところ、中古車市場でも「ブラックラベル」という名前が付くだけで、その個体の格付けが一段上がるほど。最新のモデルでも、ブラックライン・スペシフィケーションといったオプションを選ぶと、ロゴだけでなく外装のメッキ部分もすべて黒で統一され、より凄みのある外観へと進化します。つまり、黒はベントレーにおける「究極の完成形」を示す色。誰にも媚びない、絶対的な自信の象徴として、今もなお多くのオーナーがこの色を求めて止みません。
かつては緑や青のロゴも存在していたというマニアックな話
さらに歴史を深掘りすると、赤と黒以外にも「緑」や「青」の背景色を持つベントレーが存在していました。緑(グリーンラベル)は、創業者W.O.ベントレー時代の精神を色濃く受け継いだ、伝統的なモデル。青(ブルーラベル)は、より快適でラグジュアリーな巡航性能を重視したモデルに割り振られていました。これらの色分けは時代の変遷と共に整理され、現代ではほとんど見かけなくなりましたが、稀にクラシックな個体や特別な限定車でこれらの色に出会うと、その車の歴史的なルーツを垣間見たような気分になります。
こうした細かな色使いの歴史を知ると、イギリス車がいかに自らのヘリテージ(遺産)を大切にしているかが分かります。ひとつの色に一喜一憂し、その意味を語り継ぐ。それは効率を求める現代の車作りとは対極にある、非常に贅沢で文化的な営みです。正直なところ、色の意味なんて知らなくても車は走りますが、それを知っていることで、目の前の車が語りかけてくる情報の解像度が劇的に上がります。緑は伝統、青は快適。その色の裏側にある開発者たちの想いを想像する時間は、車好きにとって最高の至福の時だと言えます。
イギリスの高級車がこぞって羽のデザインを使い始めたきっかけ
アストンマーチンやベントレーだけでなく、ミニやモーガンなど、イギリス車にはなぜこれほどまでに「羽」のロゴが多いのでしょうか。そこには、大英帝国が誇った技術のルーツが関係していました。
航空機のエンジンを作っていた誇りが羽に込められている
イギリスの自動車ブランドの多くは、第一次世界大戦やその後の時代、国家の命運をかけて航空機エンジンの開発に携わっていました。ロールスロイスやベントレーといった名門は、空の世界で「壊れない、パワフルなエンジン」を作り、その技術の高さで世界を驚かせたのです。戦争が終わり、その舞台が空から地上(自動車)へと移った時、彼らは自らの出自を忘れないために、航空機の翼やプロペラをモチーフにしたロゴを掲げました。つまり、羽のマークは「我々は空の技術を、地上で再現する」という、極めて高い技術的プライドの証明だったのです。
この「空のDNA」こそが、イギリスの高級車を特別なものにしています。単なる豪華な移動手段ではなく、航空機のような精密さと、空を飛ぶような高揚感を提供する。そんな思想が、ウィングマークには込められています。実際のところ、当時の航空エンジンの信頼性は生死に直結するものでした。その厳しい基準で車を作っているという自負。それが羽という形になって、イギリス車のエンブレムを埋め尽くしたわけです。調べて判明したこの歴史的背景を知ると、あの羽たちが、ただのファッションではなく「命を預かる重み」を持って見えてくるから不思議です。
ラグジュアリーとスピードを両立させるための共通の記号
もう一つ、羽が愛される理由は、その視覚的なメッセージの強さにあります。イギリスの高級車は、ドイツ車のような「精密な機械」としての冷徹さよりも、より情緒的でエレガントな「旅の道具」としての側面を強調します。重厚なレザーやウッドを使いながらも、走れば野獣のように速い。この「重厚さ(ラグジュアリー)」と「軽快さ(スピード)」という、矛盾する要素を同時に表現するのに、空を舞う羽は最高の記号でした。羽は軽いだけでなく、強靭な筋肉によって支えられている。そのイメージが、イギリス車のキャラクターに完璧に合致したのです。
この共通の記号を使うことで、イギリス車全体が「高級で速い」という一つのブランドイメージを形成することに成功しました。アストンマーチンもベントレーも、それぞれに独自の物語はありますが、羽を広げた姿を共通項にすることで、見る者に一瞬でその価値を伝えているのです。意外なことに、新興のブランドが羽のロゴを使おうとしても、なかなかこの「イギリス的な気品」を再現できないのは、そこに100年以上にわたる空と陸の歴史が積み重なっていないからかもしれません。羽は、イギリスのエンジニアたちが書き続けてきた、終わりのない挑戦の詩(うた)そのものなのです。
よくある質問
アストンマーチンとベントレー、そしてイギリス車のロゴにまつわる、多くの人が抱く素朴な疑問に答えます。
ミニやモーガンのロゴも羽に見えるけど関係があるの?
はい、これらも同じイギリスの伝統的な文脈の中にあります。ミニ(MINI)のウィングロゴは、かつての親会社であったオースチンやモーリスの時代から引き継がれたもので、やはり「自由」や「俊敏さ」を象徴しています。モーガンもまた、100年以上続く伝統の中で、航空機の翼をイメージしたロゴを守り続けています。つまり、イギリス車にとって羽は、メーカーを問わず「高品質な乗り物」であることを示す、共通の紋章のような役割を果たしていると言えます。
ロゴのデザインが変わると中古車の価値も変わるもの?
ブランドによりますが、アストンマーチンのように長い歴史の中でロゴを刷新する場合、あえて「旧ロゴ」を好むマニアが存在するため、古いロゴの方が希少価値が出ることもあります。一方で、最新モデルに採用された新ロゴは、ブランドの新しい姿勢を示す象徴でもあるため、高年式の車両では最新ロゴであることがステータスになります。しかし、ベントレーのように「B」の色分け(ラベル)が重要な意味を持つブランドでは、ロゴのデザインそのものよりも、その色が示すグレードの方が価値に直結する傾向があります。
まとめ:ロゴのルーツを知るともっと車が面白くなる
アストンマーチンとベントレー。遠目にはそっくりな羽のロゴを掲げる二つのブランドですが、その中身を紐解いてみると、古代エジプトの神秘を纏った「スカラベの羽」と、大英帝国の空を支えた「航空機の翼」という、全く異なる壮大な物語が隠されていました。中央の文字が「ASTON MARTIN」か「B」かという違い、あるいは羽の枚数が左右でわざとバラバラに作られているというベントレーの執念。こうした細かな違いの一つひとつに、ブランドが100年以上かけて築き上げてきたプライドと歴史が刻まれています。
実際のところ、ロゴは単なる記号ではなく、その車がどのような想いで作られたかを示す「誓い」のようなものです。街中でウィングマークに出会った時、それがアストンマーチンのシャープな羽なのか、それともベントレーの肉厚な羽なのかを見極められるようになれば、あなたの車に対する解像度は劇的に上がります。ロゴの由来を知ることは、車の性能を知ることと同じくらい、そのブランドの本質に近づくための大切な鍵。次に見かけるイギリス車が、これまでとは違った深い物語を語りかけてくれるはずです。


